2章 NewYork II -Kenny-

2章 New York II

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その日エドが向かったのは、タイムズスクエアから少し歩いたところにあるSTEP INだった。そこは、時々ABTやNYCBのダンサーがクラスを受けに来るので有名だった。

殆どのダンススタジオで中級以上のクラスは、午前中からお昼に集中している中、唯一、夕方からのアドバンス(上級)クラスがあったのが木曜のSTEP INだった。

受付を済ませると、エドはロッカールームへ向かった。

稽古着に着替えていると、先週見かけた常連と思われる1人が親しげに声をかけて来た。明るいブラウンの癖っ毛が特徴的なダンサーだ。

「やあ、調子はどうだい?確か先週も見かけたね」
「ああ、まだ3度目の新参者だよ。よろしく」
「こちらこそ、俺はケニー。ブロードウェイで踊ってる」
彼はそう言って、陽気な笑顔を浮かべた。
「エド、だ」
「君は、どこのカンパニーに所属してるんだ?ブロードウェイの舞台では見かけないけど」
とケニーが聞いた。
エドは少し困ったように笑うと
「残念ながら、僕はプロのダンサーじゃないよ。趣味で踊っているだけで……」と答えた。
すると、ケニーは驚いて目を丸くしながら
「まさか、冗談だろう?あれだけ踊れてプロじゃないなんて!」と言った。
「本当だよ。プロを目指した事はあったけど……。今はコンサルタントをやっている」
「コンサルタント……?!勿体無い話だな。そんなのやめてオーディションを受けろよ」
「プロの君にそう言ってもらえるなんて冗談でも嬉しいよ」
エドが笑いながら答えるとケニーは
「おいおい、そんなに謙遜するなよ。黙ってりゃ現役のダンサーにしか見えないのに」
と言いながら、ロッカーの扉を閉めた。

エドは他にも2つのスタジオのクラスを受けようと考えていた。その中には、レイが講師をするブロードウェイ・ダンス・スタジオ(BDS)の名前もあったが、彼が受けようとしているクラスが行われる土曜の午前中に、レイがそこにいる事はなかった。レイが担当するのは土曜の夕方からのクラスだったからだ。 スタジオの掲示板に張り出されたタイムテーブルには、“LAURA”と講師名が記されているが、エドはレイが“ローラ”という名前を使っている事を誰からも聞いていなかった

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