3章 Broadway -エレメンタリークラス-

3章 Broadway

2-chapter3

エドがニューヨークに来て数ヶ月が過ぎようとしていた。
よく晴れた土曜の朝、エドはいつも通りBDSのスタジオへ向かった。朝10時からのクラスを受けるためだ。STEP IN のクラスで親しくなったケニーも、度々このクラスに顔を出していた。彼はブロードウェイでは、そこそこ名の知れたダンサーで、どちらのスタジオのスタッフとも顔馴染みのようだった。

その日もロッカールームで着替えていると、ケニーがやって来た。
「エド、早いね」
「やあ、ケニー」
「エド、夕方のエレメンタリー(初級)クラスには出た事あるか?」
「いや、ないよ。どうして?」
「出てみろよ。講師が美人なんだ。ブロンドでグレース・ケリーみたいなクール・ビューティーでさ」
ケニーが鼻の下を伸ばしながら言った。
「美人、ね……」
苦笑いしながらも、あまり関心がなさそうなエドの反応におかまいなしに、ケニーは言葉を続けた。
「ちょっとエキゾチックな雰囲気で、面白いクラスだよ。彼女、日本語が堪能らしくて、いつも日本人が何人もいる。で、レッスン中彼女は英語と日本語の両方を話していて……」
その言葉にエドは即座に反応すると「どのクラスだって?」と聞いた。
「夜のエレメンタリークラスだよ」
「講師は?」
「おいおいエド、俺の話を全然聞いてなかっただろ。短い癖っ毛のブロンド美人。」
苦笑いしながらケニーが言った。

「ブロンド……」

落胆したようにエドが言うと
「何だエド、お前の好みはブルネットか?」とからかうようにケニーが言った。
「……人を捜していてね。バレエダンサーなんだけど」
「女か?」
「ああ。ローレンって言うんだけど……、知らないか?レイって呼ばれてる」
「うーん……。ローレン、……レイ、ねぇ。ブロードウェイでは聞かない名前だなぁ」
ケニーが天井を仰ぎながら腕組みして言った。
「そうか……」
エド少しががっかりしたように、うつむくと、ケニーは
「……仲間に聞いてみてやるよ。どんなダンサーなんだ?」と聞いた。
「フルネームはローレン・バークスフォード。でも、レイ タキザワって言う日本名を使っているかも知れない。髪と瞳はダークブラウン。ABTの元ソリストだ。1年位前まで日本でバレエ教師をしていたんだけど……」
「ABTのソリスト?!」
「ああ。4年くらい前だよ。怪我で退団してる」
「……そんなダンサーと、どういうつながりだ?」
意外そうな顔をしてケニーが聞いた。
「日本で知り合ったんだ。仕事先のスタジオで彼女が教えていて……」
「……その表情から察するに、彼女はお前の恋人か何かか?……しかもワケあり、って感じだけど」

ケニーの問いにエドは寂しそうに笑うと、黙って頷いた。

「わかった。ABTに知り合いがいそうな奴がいるから聞いておくよ」
「ありがとう」
「大丈夫、見つかるさ」
ケニーはそう言って、エドの肩をポンと叩いた。

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