10章 安紗美

エドは、マンションのエントランスまで来ると、鍵を使わずに部屋の番号を押した。
「レイ、戻ったよ」
『お帰りなさい。今、開けるわ』インターホン越しにレイの声が答えた。
間もなく、入り口の自動ドアが、静かに開いた。 ...

10章 安紗美

あの日以来、レイは度々安紗美の視線を感じる事になった。金曜の夜、レッスンを終えたレイが帰り支度をしながら
「もう、困るのよね、本当に」とため息まじりに言った。
「立川のこと?」
「そう」
「何かあったの ...

10章 安紗美

翌日、近くのカフェで昼食を終えたレイと千夏が会社に戻ると、エントランスに安紗美の姿があった。

安紗美はレイに近づくと、いきなり
「嶋田さんと付き合ってるって、本当なんですか?」と聞いた。

レイが突然の事 ...

10章 安紗美

開発部オフィスの3階は、半分が社員達のためのリラックスコーナーになっていた。ウォーターサーバーやコーヒーなどが常備されたそこは、窓際がカウンターになっており、フロアにはいくつかのテーブルが設置されていた。

総務部の2人は、 ...

9章 秋雨

キッチンでコーヒーを入れていると、不意にレイの携帯が鳴った。日曜の朝から誰だろう?と思い、着信を見ると画面にはジェイの名前が表示されている。
レイは少し迷ったあと、留守番電話に転送されるギリギリのところで電話に出た。

9章 秋雨

レイの部屋は広いワンルームで、ダークブラウンのフローリングと同じ色の腰板がついた白い壁には、アンティーク調の間接照明が取り付けられていた。
ベッドルームとは天井までのシェルフで仕切られている。どことなく、イギリスの片田舎を思わ ...

9章 秋雨

エドがレイの頬にそっと触れると、レイは、戸惑った表情のまま彼を見た。レイには、自分の置かれている状況が、まだよく理解できなかった。

「私は夢を見ているの?」心の中でそう思った。

エドは彼女の髪を優しく撫でるよう ...

9章 秋雨

店を出て帰途についたのは12時近くで、そろそろ終電という時間になってからだった。

2人とも、外苑前から歩いて10分とかからない所に住んでいたが、それぞれの住まいは、駅を挟んでちょうど反対方向にあった。

降りる駅 ...

9章 秋雨

約束の日、レイは仕事が終わると一度部屋に戻り、淡いグレーの柔らかなタートルネックのニットを着て、深いブルーのデニムを穿くと、バロックパールのロングネックレスを着け、フワフワとしたファーが柔らかなボルドーのジャケットを羽織った。

9章 秋雨

「昨日、ミュージカルに誘われたわ。嶋田さんに」

金曜の夜、店にやってきたレイは、カウンター席に着くと、まるで業務報告をするようにジェイに言った。「まあ!そりゃ、よかったじゃない!ミュージカルなんて素敵だわ。で、いつ?」