もうひとつのジゼルの物語-東京編-,5章 Lauren

ナツが心配していたわ。またあなたが踊ってるって。あなたがそんな風に踊るのは何かを忘れたい時でしょ?」
「別に私は……。こっちに来てから舞台に立つ機会もないし、単に踊りたかっただけで……」
ゴマかすように言うと、レイはグ ...

もうひとつのジゼルの物語-東京編-,5章 Lauren

いつの間にか、季節は緑のまぶしい夏になろうとしていた。あの日、立川安紗美と嶋田の姿を見て以来、レイの心は波だってばかりだった。心が軋んでどうしようもなく、それを収めるには、踊る以外の方法を彼女は知らなかった。

その日も皆が ...

もうひとつのジゼルの物語-東京編-,4章 初夏

「レイにとって、彼に恋しちゃったって事は、予想外の出来事だったのよ、多分。あの子、いつもスタジオの扉越しに、たまに来る彼の姿を見てたわ。自分の気持ちに少しも気づかずにね」
「で、今日彼がその子と一緒にいるのを見て、初めて自分の ...

もうひとつのジゼルの物語-東京編-,4章 初夏

その日、仕事が終わると、千夏はKINGSへと向かった。

「ナツ、いらっしゃい。あら?レイは?一緒に来るんじゃなかったの?」
「今日は踊りたい気分なんですってよ」

少し憮然とした表情をしながら千夏はカウン ...

もうひとつのジゼルの物語-東京編-,4章 初夏

春も終わりを告げ、通りの木々は淡い緑で彩られていた。そろそろ梅雨の季節が来る、と千夏が憂鬱そうに言っていたが、とてもそんな風には思えない気持ちのいい日だった。

レイは、ランチを買いに出かけたものの、心地よい空気の誘惑に負け ...

もうひとつのジゼルの物語-東京編-,3章 KINGS

日曜の午後、ジェイが『CLOSED』の札が扉にかけられた店内でアーロンと遅めの昼食をとっていると、ドアをコンコンとノックする音が聞こえた。ジェイが無視を決め込んでいると、

「ジェイ!いるんでしょ、私よ」と声がした。 ...

もうひとつのジゼルの物語-東京編-,3章 KINGS

デジタル・ウエーブ・インターナショナルからほど近いところに、KINGSはあった。周りには小さなショップが建ち並ぶ、ちょっと小洒落た一角だ。

そこは金曜と土曜しか営業しておらず、経営者であるジェイムズ・メイヤー(ジェイ)の知 ...

もうひとつのジゼルの物語-東京編-,2章 春の風

それから嶋田はコンサルタントとして、週に1度は―大抵それは木曜と決まっていた―、会社を訪れるようになった。レイは、スタジオの受付カウンターからガラス扉越しに彼の姿をたびたび見かけていた。

彼のおかげで総務部の女子社員たちは ...

もうひとつのジゼルの物語-東京編-,2章 春の風

レイがデジタル・ウエーブ・インターナショナルのスタジオ事業部に入って3ヶ月が経とうとしていた。

4月の初め、スタジオの窓からは桜の花がとても美しく見えており、時折、レイはその美しい桜を窓からうっとりと眺めていた。

もうひとつのジゼルの物語-東京編-,1章 始まりの場所

デジタル・ウエーブ・インターナショナルは少しばかり変わった会社だった。ウェブ開発部門とダンススタジオ部門という変わった事業構成で、そのスタッフの殆どが外国人だ。社内では英語が飛び交い、ここが日本である事すら忘れてしまいそうな環境である ...