12章 Forever and ever -心の雲-

エドが突然の風に驚いてリビンングの方を見ると、レイがバルコニーの手すりに手をかけ下を覗き込むようにしていた。
次の瞬間、彼は弾かれたようにレイに駆け寄り彼女の腕を取ると、部屋の中へ引き入れ、窓をぴしゃりと閉めた。
「レイ!何を……。一体どうしたんだ?!」
少し動転したようにエドが聞くと、レイはぼんやりとどこかを見つめたまま、その場に崩れ落ちた。エドは床に膝をついてレイの顔を覗き込むと
「レイ、今日はバルコニーに出るには風が強すぎるよ」と優しくなだめるように言った。
すると、突然レイの目から涙がぽたぽたとこぼれ落ちた。
「……私、……私、こんなつもりじゃなかったの。あなたの気をひこうとあんな事をしたんじゃない」
「レイ?」
エドは、レイが何の事を言っているのか、すぐには分からなかった。
「こんな身勝手な事……、私……。ごめんなさい……、ごめんなさい……」
「レイ、何を言っているんだ」
少し困惑しながらエドが聞いた。
「もしもあなたが、私の起こした事に対して責任を感じているなら、私は……。あなたには誰か他に愛している人がいたかもしれないのに!……誰かを傷つけるつもりなんてなかったの、あなたを苦しめるつもりもなかったの、そんなつもりじゃなかったの!」
混乱したように言うレイは、今にも取り乱してまたバルコニーに飛び出していきそうだった。
「レイ、レイ!落ち着いて、落ち着くんだ」
エドはレイをしっかりと抱き寄せた。
「誰かからあなたを奪うつもりなんて、なかったの。……でも、私はあなたがいないと……」
レイは言葉を途切れさせると、声を押し殺す様にして泣いた。エドは、彼女が自分以上に、そして思っていた以上に辛い日々を送っていたのだと痛感した。
彼は小さく息を吐いた。
「レイ、確かに君が心配でここに連れて来たけれど、それは責任だとかそんな事じゃない。君を1人にしたくなかったし、君を離したくないと僕が思ったからだ。……パトリックから君が薬を飲んだと聞かされた時、僕がどう思ったと?……君を永遠に失ってしまうんじゃないかという恐怖でいっぱいだったよ」
レイは黙ったまま、怯えた仔猫のように肩を震わせている。
「僕は君を愛している。一日だって君を忘れた日なんてない。君が日本を去って以来、ずっと僕は君を捜して来た。君だけを想って。……だからレイ、二度とバカな事はしないでくれ、お願いだ。僕だって君を失ったらどうすればいいか分からないんだ……」
最後には言葉を詰まらせる様に言ったエドの目は少し涙ぐんでいる。
エドは、レイの額にキスすると
「さあ、床は冷えるから」と言って、レイを抱き上げるようにして立ち上がった。
すると、レイが彼を見上げて
「……私は、ここにいてもいいの?あなたのそばにいてもいいの?」と聞いた。
エドは、穏やかな表情でレイを見つめると 「ああ、僕のそばにいてくれ」と答えた。