7章 Patlic 1 -嬉しい便り-

2019年11月19日7章 Patlic

Chapter7 Patlic

ここ数日、DWIのオフィスはちょっとしたトラブル続きでバタバタしていた。暑くなる季節だというのに、空調設備が故障したり、社内のサーバーが落ちてしまったり。

それでも、千夏が頭を抱えていることに比べれば、こんなことは取るに足らないことだった。もちろん開発部はサーバーが落ちて大騒ぎだったが。

「ねえ、千夏、来月のワークショップ、講師は決まったの?」
レッスンを終えてオフィスに戻ったレイが心配そうに聞くと、千夏はため息混じりに
「いいえ、まだ。パトリックにも声をかけたんだけど、先週の返事では調整してみるから待ってくれって」と答えた。

DWIでは、毎年8月の半ばに、海外から現役ダンサーを呼んでワークショップを行っているのだが、今年の男性クラスを担当するはずだったダンサーが怪我で来られなくなってしまったため、別のダンサーを急遽探すことになったのだ。

千夏は、かつてABTで同期だったパトリック・オーモンに声をかけていたが、はっきりした返事をもらえないままでいた。

「最悪、来月通常クラスの講師で来てくれるアルノーに拝み倒すしかないわねぇ。彼だったら助けてくれそうだもの」

千夏はそう言いながら、再びPCの画面に視線を戻した。すると、新しく受信されたメッセージの中に、パトリックからのものがあった。メッセージを開いてみると、そこには、スケジュールの都合がついたので講師を引き受けるという内容が記されていた。それを見た途端、千夏は、

「やった!パトリックが来てくれるわよ。オッケーですって!」と嬉しそうに叫んだ。
「本当?!」
レイは千夏のデスクまで駆け寄ると、メールの画面を覗きこんだ。パトリックはABTでレイや千夏と同期で、レイと同じソリストだったが、今はシカゴのバレエ団にプリンシパルとして所属している。190センチ近い長身で、金髪にブルーの瞳を持つ典型的な王子様タイプのダンサーだ。
「ちょうどオフになるからって。さっそく、レッスンスケジュールを更新しとかないとね」
「そう……、パトリックが……」
レイが懐かしそうな声で言った。
「彼、今じゃプリンシパルですものね。ABTでもちょくちょくゲストで踊ってるし。もう我々とは違う世界の人よねぇ」

8月の半ば、パトリックが日本に到着する日がやって来た。
「こんな日に午後のクラス担当なんて残念だわ」
午前のクラスを終え、パトリックを迎えに出かける千夏に、レイは残念そうな表情で言った。
「すぐ会えるわよ。クラスが終わる頃にはパトリックを連れてくるわよ。楽しみに待ってて!」
千夏は満面の笑みで答えると、バッグを手にしてオフィスを飛び出していった。

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7章 Patlic

Posted by Marisa