7章 Patlic 7 -否定-

7章 Patlic

chapter7

翌日、午前中のワークショップを終え、パトリックはレイと一緒にオフィスの片隅に置かれたテーブルでお昼をとっていた。千夏は午後からの出勤でまだ出社しておらず、事務のエリカは出かけていた。

「なあ、ローラ、この間の彼とは、どうなんだ?」
「えっ?」
不意に聞かれて、レイは驚いて顔を上げた。

「だから、彼を好きなのかって」
「……それは」
答えることを躊躇っているレイにパトリックは
「礼儀正しくて、まじめそうな奴じゃないか。それに、君の事を気にかけているみたいだし」と言った。「まさか……。彼は私のことなんて、ジェイの知り合いくらいにしか思っていないわ」
「そうか?俺にはそうは見えなかったけどね。思いっきり俺を牽制してたじゃないか」
「牽制?どうして?」
意外そうな顔をしてレイが聞くと、パトリックは気抜けしたような表情をして、ため息をついた。

「どうしてって……、そりゃ君を好きだからに決まってる」

その言葉にレイは目を真ん丸くした後、呆れ顔で笑いながら
「まさか!そんなことあるわけないわよ、あり得ないわ。おかしなこと言わないでよ!」と言った。
「ローラ、俺はおかしなことなんて……。彼は……」

「パトリック、やめて」
レイはピタリと笑うのを止めると、少し険しい表情でパトリックの言葉を遮った。

パトリックがその表情に少し驚いていると
「私に夢を見させないで。もう虚しい夢は見たくないのよ」と言った。

そして、レイは壁に掛かった時計を見ると
「……そろそろ、午後のレッスンの準備をする時間だわ。スタジオを開けてこないと」と言いながら、席を立ちIDカードを持った。2階へ行こうとするレイの背中に、パトリックは
「ローラ、すまない。君の気持ちも考えずに……」と声をかけた。
レイは、ゆっくりと振り向くと、困ったような笑顔で「いいのよ」と言った。
そして階段を上りながら、
(彼が、私を好きですって?……そんなこと、あるはずないじゃない。そう、あり得ないわ)
と、 自分に言い聞かせるように、心の中で呟いた。

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7章 Patlic

Posted by Marisa