2章 NewYork II -Sara-

水曜の朝、エドがオフィスで資料をまとめていると、マークスが秘書のサラを連れてやってきた。
「エド、紹介するよ。君のアシスタントのサラだ」
「サラ•ニコルソンです。一緒にお仕事できて光栄ですミスター・オークリッジ」
チャコールグレーのスーツにブロンドのストレートヘアを後ろできっちりと結ったサラは、にっこり笑って右手を差し出した。
エドは立ち上がると
「エド、でいいよ。これからよろしく頼みます」と言ってサラと握手を交わした。
笑うと、レイと少し似たところがある、と思った。
簡単な挨拶を終え、サラがファイリングする資料を抱えてエドのオフィスを出てゆくと、彼は窓の外に広がるセントラルパークを眺めながら
「レイ、君は一体どこにいるんだ?」とつぶやいた。
翌日、出社するとサラがすぐにコーヒーと資料を手にしてやってきた。
「おはようございます」
彼女はコーヒーをデスクに置きながら、デスクの上のレイの写真に目を留めた。
「きれいな方ですね。日本にいる婚約者の方ですよね?」
「ああ」
「バレリーナだそうですね。素敵だわ」
「今は、バレエ教師をしているよ」
「私もジャズダンスを……といっても初心者ですけど。最近のニューヨーカーはダンスをやっている人、結構多いんですよ」
そう言うとサラは、作成した資料の束をデスクに置いた。
「昨日の資料です。足りないものがあればおっしゃってください」
「ありがとう」
「それと、明後日のミーティング用の資料は今日中に一旦揃えますからチェックしてください」
サラはにこりと笑うとエドのオフィスを出て行った。
その日の仕事が終わると、エドはオフィスのクローゼットから、シューズやウェアの入ったバッグを取り出すと、それを肩にかけブロードウェイのダンススタジオに向かった。
オフィスを出る時に、マークスがエドの荷物を見て
「ジムか?」と聞いたので
「ああ、そんなところだ」と答えた。
エドは、ブロードウェイのいくつかのダンススタジオに通いはじめていた。レイがNYにいれば、クラスを受けに来るのではないかと思ったからだ。同じクラスの中に、もしかすると彼女を知る人もいるかもしれない、と。
日本にいた頃、自分がクラシックをやっていた事をレイに隠していたが、『みっともない姿を見られても』彼女を見つけられるのなら、そんなつまらない見栄など、どうでもよかった。