2章 NewYork II -Edword-

ミッドタウンにあるマークスのオフィスでは、5名のコンサルタントを始め、全部で14名のスタッフが働いていた。
スタッフの人数に対して広すぎるくらいのオフィスは、白を基調にダークブラウンをアクセントカラーにしたモダンな雰囲気で、とても居心地の良い空間だった。スタッフのワークエリアは白い磨りガラスのパーテーションで仕切られ、仕事に集中できる環境になっている。
エドとマークスのオフィスは個室になっており、部屋を区切っているガラスのパーテーションのブラインドを閉めれば、完全な個室にする事が出来た。
エドは閉められていたブラインドを開けると、鞄を椅子に置き、部屋を見回した。窓際には観葉植物が置かれ、来客用のソファとテーブルがある。デスクの後ろは天井までの棚と小さなクローゼットが作り付けられている。
東京から送られて来たファイルや資料の入った段ボールを開けながら、彼は窓の外を眺めた。
そこからは緑に彩られたセントラルパークを見渡す事が出来た。
エドは手を止め、しばらく遠くを見つめるようにしていたが、小さく息を吐くと段ボールの中からファイルや本を取り出した。ファイルを棚に入れ、デスクの上が片付くと、エドは鞄の中からいくつかの写真立てを取り出した。
それは、レイと2人で撮ったものや、彼女が衣装をつけて美しいポーズで微笑んでいるものだったが、その中でもファッション雑誌のように美しく撮影されたモノクロの写真は、東京でアーロンが撮影してくれたものだった。
彼が懐かしそうに、それらの写真を眺めていると、ドアをノックする音がし、ジェフリー・マークスが入ってきた。
「どうだ、そろそろ片付いたか?」
「ええ、殆ど……」
そう言いながら、手にしていた写真立てをデスクに置いた。それを見たマークスが、
「彼女が例の婚約者か?美人だね」と言った。
エドは、マークスに『日本に婚約者がいる』と伝えており、それはもちろん、レイの事だった。
マークスは、トゥシューズを履いたレイの写真を見ると
「おや、エド、君の恋人はバレリーナなのか?」と聞いた。
「ええ、今はバレエ教師ですけど……」
「そうか。妻が大のバレエファンでね。METシーズンには劇場に通づめだよ」
そう言ってマークスは苦笑いした。
「彼女がこっちへ来たら、是非一緒に行こうじゃないか」
「そうですね。是非」
「じゃあ、何か必要なものがあればあそこのクレアに言うといい。君のアシスタントは水曜から来るよ」
マークスが出て行くと、エドは3つある写真立てを机の一番いい場所に並べた。 彼がこの会社に来たのは、日本支社からロンドン本社へ戻る辞令が出たからだった。ロンドンには戻りたくなかった。だから、勤務していたその会社を辞め、以前から誘われていたマークスの会社に共同経営者として入る事を決めたのだった。
何より、ニューヨークにレイがいる、という根拠のない予感がしたからだ。