17章 約束

エドは、プリントアウトした資料とプレゼンテーション用のスライドデータの入ったメモリスティックをカバンに入れると、オフィスを出た。

レイを失った痛みをかき消すには、忙しく仕事をする以外、どうしようもなかった。そうしていないと ...

17章 約束

「エドの様子はどうなの?」
千夏がコーヒーカップを置きながら聞いた。
「恐ろしいくらい仕事してるわよ。相当まいってるわね、あれは」
ジェイがため息交じりに答えた。

秋晴れの、とても天気のいい日で、ジ ...

16章 夢のあと

雨が強くなってきたのか、雨水がぽたぽたと流れる音と、時折通る車が雨水を跳ね上げる音が、静かな店内に聞こえてくる。彼女を初めて抱きしめたのも、こんな雨の夜だった、とエドは思った。

しばらくすると、ジェイが新しく入れたコーヒー ...

16章 夢のあと

店内には、壁の時計が時間を刻むかすかな音と、時折コーヒーメーカーが発する蒸気の音がするだけだった。エドは長い間、息も出来ず呆然としていたが、やがて両手で顔を覆うと
「幸せになんて……、彼女なしで幸せになど……」と絶望的な声で呟 ...

16章 夢のあと

アトリエの駐車場に到着すると、ジェイはエドの肩を軽く揺らせた。
「エド、起きて」
「ああ……、すまない。眠ってしまって……」
「いいのよ。それより、あなたに話しておきたいことがあるから、ちょっといい?」

16章 夢のあと

レイがニューヨークへ発った翌日、ジェイは再び空港へ向かった。エドが日本へ戻る日だった。

午後5時を過ぎた頃、到着ロビーにエドの姿を見つけると、ジェイは小さく手を振った。それに気付いたエドは、少し疲れた顔でにこりと笑うと手を ...

16章 夢のあと

4月の終わりの空は、柔らかな光りに輝き、春とは思えないほど澄んでいた。レイは部屋のカーテンを閉めると、スーツケースを玄関の外に出し、部屋の中へ向き直った。

ゆっくりと部屋を見渡し、目を閉じると、瞼の中をエドと過ごした日々が ...

15章 微熱

病院の待合室で、レイの処置が終わるのを待ちながらアーロンが不安げに聞いた。

「ジェイ、レイは……」

「……あの子、お腹に子供がいたんだわ」
まるで独り言のようにジェイが言った。

「えっ?」 ...