12章 冬の気配

「大切なものは、何があっても決して手放してはいけないわ」

エドはメアリーの言葉に、はっと我に返って顔を上げた。メアリーは庭のずっと先を眺めたまま、呟くように、ぽつりと
「……ルイーズにも同じ事を言ったわ」と言った。 ...

12章 冬の気配

どうやって知ったのか、ロンドンに滞在している事を知った父親から連絡があり、渋々ロンドン郊外の家に戻ると、父と継母のアメリア、そしてクリスティ・リングトンが彼を迎えた。

10歳近く年下のクリスティは、エドにとって、幼い頃を知 ...

12章 冬の気配

エドはその日の午後、ロンドンでの最後の仕事を終えると、ジュエリーデザイナーである知人のアトリエへ向かった。彼のデザインしたネックレスはレイのお気に入りで、彼女のためにデザインされたそれは、エドが最初のクリスマスに贈ったものだった。

12章 冬の気配

確かに、バークスフォード家がレイの存在を知っているのか、またその存在を認めているのかも分からない。エドの話では、ルイーズに娘がいたと言う事実は知られていない。レイの言う通り、彼女はバークスフォード家にとって存在しない人間なんかもしれな ...

12章 冬の気配

「早いわね、あなたが日本に来てもうすぐ3年近く経つなんて」
ジェイがしみじみと言った。

日曜の午後、レイは、ジェイと彼のアトリエの一角にいた。ロールスクリーンを開けた大きな窓からは秋の光が一杯に降り注いでいる。ジェ ...