9章 秋雨 6 -ジェイ-
キッチンでコーヒーを入れていると、不意にレイの携帯が鳴った。日曜の朝から誰だろう?と思い、着信を見ると画面にはジェイの名前が表示されている。
レイは少し迷ったあと、留守番電話に転送されるギリギリのところで電話に出た。
9章 秋雨 5 -告白-
レイの部屋は広いワンルームで、ダークブラウンのフローリングと同じ色の腰板がついた白い壁には、アンティーク調の間接照明が取り付けられていた。
ベッドルームとは天井までのシェルフで仕切られている。どことなく、イギリスの片田舎を思わ ...
9章 秋雨 4 -ふたり-
エドがレイの頬にそっと触れると、レイは、戸惑った表情のまま彼を見た。レイには、自分の置かれている状況が、まだよく理解できなかった。
「私は夢を見ているの?」心の中でそう思った。
エドは彼女の髪を優しく撫でるよう ...
9章 秋雨 3 -切ない香り-
店を出て帰途についたのは12時近くで、そろそろ終電という時間になってからだった。
2人とも、外苑前から歩いて10分とかからない所に住んでいたが、それぞれの住まいは、駅を挟んでちょうど反対方向にあった。
降りる駅 ...
9章 秋雨 2 -ミュージカル-
約束の日、レイは仕事が終わると一度部屋に戻り、淡いグレーの柔らかなタートルネックのニットを着て、深いブルーのデニムを穿くと、バロックパールのロングネックレスを着け、フワフワとしたファーが柔らかなボルドーのジャケットを羽織った。
9章 秋雨 1 -心の中の雲-
「昨日、ミュージカルに誘われたわ。嶋田さんに」
金曜の夜、店にやってきたレイは、カウンター席に着くと、まるで業務報告をするようにジェイに言った。「まあ!そりゃ、よかったじゃない!ミュージカルなんて素敵だわ。で、いつ?」