10章 安紗美 2 -アプローチ-

10章 安紗美

chapter10

翌日、近くのカフェで昼食を終えたレイと千夏が会社に戻ると、エントランスに安紗美の姿があった。

安紗美はレイに近づくと、いきなり
「嶋田さんと付き合ってるって、本当なんですか?」と聞いた。

レイが突然の事に戸惑っていると、安紗美は苛立ったように
「いつから、いつからなんですか?」と質問を重ねた。
「ちょっと、いきなり失礼じゃないの?」
千夏が少しきつい口調で言った。
安紗美は、何でもはっきりと口にする千夏が苦手だったが、この時ばかりは、鋭い視線を千夏に投げ返した。

千夏は嫌悪感を露にすると、
「レイ、この子の質問に答える必要はないわよ。行きましょう」と言ってレイの腕を取った。
すると、安紗美は強い口調で
「ちょっと待ちなさいよ。質問に答えてないわ」と言った。
その言葉に、それまで黙っていたレイが、
「立川さん、あなたにプライベートな事を話す必要はないわ」とぴしゃりと言った。
安紗美は、その言葉に一瞬、怯んだようしたが、
「私……、私、嶋田さんが好きなんです。だから、あなたなんかに渡さない!」と言うと、挑戦する様な目でレイを見た。
レイは彼女を見据えると、安紗美が英語を理解できない事を知っているうえで、「どうぞご勝手に」と英語で言った。
安紗美の態度は、滅多に嫌な顔をしないレイの神経を逆撫でするのに十分だった。
「あなた、人にものを聞くときのマナーを身につけるべきね」
千夏はそう言うと
「レイ、行きましょ。時間がないわ」とレイを促してオフィスの方へ歩き出した。
安紗美は下唇を噛み締めて、2人の姿をじっと見ていた。

事務所に入ると、千夏は受付名簿を用意しながら
「レイ、あなたも言うときは言うのね」
感心したように千夏が言った。
「さすがにね、ちょっと……」
ロッカールームのドアノブに手を掛けながらレイが答えた。
「でもレイ、あの子、おかしな事しないかしらね。ストーカーになりそうなタイプじゃない?」
「一途って言うのかしらね……。可哀想だけど、あんな事言われても、はいどうぞってわけにはね」
レイは困ったように言うと、ロッカールームに入り扉を閉めた。

それにしても、どうして自分が彼と付き合っていると言う事を安紗美が知っているのだろうと思った。 もっとも、誰かに見られていてもおかしくはないのだが。

が、たとえ会社にその事が分かっても、仕事に支障さえ出なければ、何も言われないだろう。社内のカップルや夫婦は珍しくはない、DWIは、そう言う社風の会社だった。

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