14章 冬空 2 -驚き-

14章 冬空

chapter14

「また、レイがスタジオに篭っているのよね」
千夏が心配そうにため息をついて言った。
「……エドと何かあったの?」
「彼と喧嘩したくらいなら、スタジオに篭ったりしないわよ。話はもっとややこしいの。ジェイ、何も聞いてないの?」

「ややこしいって……。一体何の話よ。私は何も聞いていないわよ」
千夏は、ジェイの顔をじっと見た後、大きくため息をついてこめかみのあたりを押さえた。

「クリスティって女よ」

嫌悪感をあらわにして千夏が言うと、ジェイが眉間にしわを寄せて
「クリスティ?誰よそれ」と聞いた。
「……年末にね、電話があったのよ。会社に」
「会社に?……それで?その女、何をレイに言ったの?」
「婚約者、ですって」

「えっ?」ジェイが眉をぴくりと動かした。

「エドの婚約者よ。本当にレイから何も聞いてないの?」
「レイからは何も……。エドからはそういう話があるとは聞いたけど……。でもエドは、はっきりと断ったと言っていたわ」
混乱気味にジェイが言った。
「レイも、そう言っていたわ。彼は断ったって……」
「じゃあ、そのクリスティとかいう女の言ったことなんて気にしなきゃいいじゃない」
「そうなんだけど、そうも行かないのよね……」
千夏が困った顔で言うと、ため息をついた。
「どうして?」
「頻繁に電話が掛かってきて……。それで、会社の電話は取り次がないようにしたら、今度はレイの携帯に……。結局、着信拒否して、番号を変えて……」
「携帯に?どうしてレイの携帯番号を……」
「分からないわ。でも、どうにかして調べたのよ、きっと」
苦々しい顔つきで千夏は言うと、心配そうに
「あの子、精神的にかなりキツイのよ。いくら彼を信じていたってね。……だって、あなたにすら話さないなんて、口にしたくもないくらい滅入ってるって事だわ」と言った。
「そうね……」
ジェイは途方にくれるように腕を組むと、視線を落とした。
「最悪だったのは、一昨日よ。スタジオに……」
千夏が話し始めた、ちょうどその時、店の扉が開くと疲れきった表情のエドが現れた。

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14章 冬空

Posted by Marisa