14章 冬空 4 -選択の時-

ジェイは、やれやれと一息つくと
「あなたがクリスティを傷つけまいとすればする程、レイが傷つくって言うのは間違っていないわ。ねえ、エド、あなたにとって一番大切なのは何か、よく考えて。クリスティを傷つけないことなの?それともレイなの?」と言った。
「レイは、そんなことがあったなんて一言も……」
千夏は、戸惑いながら言うエドをチラリと見ると、再び口を開いた。
「……レイは、あなたがクリスティのことで神経をすり減らしているのを知っているのよ。だから、余計な負担を掛けたくなかったの。“私と彼女の問題だから”ってレイは言ったけど、違うわ。エド、あなたとクリスティ、そしてオークリッジ家の問題だわ。レイは関係ない。なのに、どうしてレイがあんなに傷つかなきゃならないの?」
エドは何も言うことができないまま、顔の前で両手を組むと、グラスに視線を落とした。
「私もナツも、あなたを責めてるんじゃないのよ。あなたも、辛いことは分かってるわ。……エド、あなたは優しすぎるのよ、誰に対しても。そのままじゃ、いつか一番大切なものを失ってしまうわ」
ジェイが穏やかな口調で言うと、エドは顔を上げ
「大切なものを失う……?」と、問いかけるように言った。
「エド、今あなたは人生の中で大切な選択をしなければいけない時なのよ。そして、何かを選ぶとき、犠牲や代償が必要な事だってあるわ。誰かを傷つけなければいけない事だってね。全てが平穏無事に収まることばかりじゃないの」
「それは分かるよ。……でも」
ジェイは、言葉に詰まっているエドに
「あなたは一体、何をそんなに迷っているの?」と聞いた。
「迷う?僕は迷ってなどいないよ」
「じゃあ、どうしてクリスティを野放しにしておけるの?彼女があんなことをしているのは、あなたが自分を選ぶと思っているからじゃないの?冷たく彼女を切り捨てなくちゃダメよ」
「……切り捨てるだなんて」
エドが絶句するように答えると、ジェイは厳しい顔つきで彼を見て言った。
「はっきり言うわ、エド。あなたは自分が悪者になりたくないのよ。クリスティに対しても、レイに対しても、自分が悪者にならず、2人とも傷つけずに何とかしようとしている。違う?」
その言葉にエドは一言の反論もできなかった。事実、できるだけクリスティを傷つけず穏便に収めたいと思っていたからだ。
「そんな事、無理なのよ。あなたがそうして神経をすり減らしているうちに、あの子を……、レイを失うことになるわよ。……冗談じゃなく、本当にね」
真剣な眼差しでジェイが言った。
少しの沈黙が流れた後、千夏が 「無視を決め込めばいいのよ。一切気に留めない、相手にしない。クリスティがいつまでも食下がるのは、あなたが相手にするからよ」と言った。