11章 So far so close -覚醒-

パトリックが病院を尋ねると、レイの担当医が彼を呼び止めた。
「実は昨日の夕方、意識が一旦戻ったんですが……」
その言葉にパトリックは安堵の表情を浮かべて
「目を覚ましたんですか?」と聞くと、彼は言い辛そうに
「ええ、しかしすぐに興奮状態になってしまって、今朝も……。今は、薬で眠っていますが……」と言った。
彼の言葉にパトリックは言葉をなくした。
「……精神科医かカウンセラーの診察を受けた方が良いかと思いますが」
「精神科医?カウンセラー?」
パトリックが、ゆっくりと彼の方を向きながら言った。
「ええ。彼女には心のケアが必要かと……」
「……そんな、彼女は別に心の病気を患っているわけじゃないんだ。ただ、少し気分が落ち込んだだけで−―」
「少しは、気持ちを楽には出来ると思いますよ」
「いや、必要ありませんよ。今の彼女に精神科医もカウンセラーも、薬も何の意味もないよ」
パトリックは、軽く会釈して彼の横をすりぬけ、レイの病室へ向かった。彼女に必要なのは、カウンセラーでも薬でもない。エドが彼女のそばにいれば、もうおかしな事も考えないだろうし、気持ちも落ち着くはずだとパトリックは思った。
眠っているレイを見ながら、とりあえず昏睡状態からは脱したのだと思うと、少しだけホッとした。
「ローラ、君は幸せになれるんだ。もう泣かなくていい」
しばらく、眠っているレイの様子を見たあと、彼は病院を後にした。通りに出ると、携帯電話を取り出しエドに電話をした。
「エド?俺だ。パトリック。彼女の意識が戻った」
「本当に?……ああ、……よかった」エドが安堵したように答えた。
「ただ、俺が行った時は眠っていたから、話してはいないけど……」
パトリックは、彼女が鎮静剤で眠らされている事は言わないでおいた。
「で、エド、明日ニューヨークに戻るんだろう?夕方彼女を迎えにこらえるか?」
「明日?昼には戻れるから大丈夫だけど、……もう退院できるのか?」
「退院させるさ。あんな病室にいたってしょうがないだろ」
「……彼女は、僕の事を?」
「いや、まだ話していないよ。眠っていたからね。……でも、大丈夫だ」
「わかった。じゃあ、戻ったらすぐに行くよ」
「ああ。来る前に電話をくれ」
「オーケイ」
「じゃあ、また明日連絡するよ」 そう言ってパトリックは電話を切った。