11章 So far so close -蒼い夢-

レイは深い眠りの中で、ひとり彷徨っていた。まわりは深い霧に包まれ、空気はひんやりと冷たい。
(ここは、どこなの?)
何も見えない霧の中を、何かを探すようにしてレイは歩き続けた。やがて微かな光が見えたと思うと、次の瞬間、レイは衣装をつけ、舞台の上にいた。客席もオーケストラも霧の向こうにかすんで見えないが、微かにジゼルの音楽が聞こえてくる。その音は次第に大きくなり、やがて音の嵐がレイを包んだ。
1幕だと言うのに、自分がつけているのは2幕の衣装だ。そんなことを気にしながら、レイは
(ああ……、踊らなくては)と思った。
戸惑いながら踊りはじめると、どこからか、パトリックの声が聞こえた。
(ローラ、もっとここは恋する幸せを表現しないと。君だって恋くらいしたことあるだろう?)
その声とともに、音楽がぴたりと止まった。レイが声の聞こえた方を振り向くと、ぼんやりとしたパトリックの姿が、誰かの影と重なった。やがてそこから浮かび上がるように現れたのはエドだった。
(エド……!)
(レイ、君を愛しているよ)
そう言って差し出された彼の手をレイが取ると、再び音楽が流れ、レイは彼と踊り始めた。恋する幸せに満ちた踊りだ。
いつの間にか、周りには収穫を祝う村人たちが一緒に踊っている。やがて、エドがふと踊るのを止め、村人たちの向こうをみた。その視線の先には、バチルドの後ろ姿があった。
(彼を返してもらうわ。あなたじゃ彼とはつりあわない)
そう言って振り返ったバチルドの顔にクリスティの顔が重なった。エドが戸惑うように彼女と視線を合わせたかと思うと、そっとレイの手を離した。
(エド、行かないで!)
レイは思わずそう叫んだが、エドは哀れむような表情をしただけで、ゆっくりとクリスティの方へ向かった。
(嫌よ!エド、エド!私を一人にしないで!)
いつの間にか村人たちは消え、周りには冷たく青白い霧がたちこめはじめていた。
レイはエドの名を叫び続けたが、彼はクリスティの手を取り、ゆっくりと霧の中へ消えていった。
(君が、そう望んだんだ)
どこからともなく、寂しげなエドの声が聞こえた。 次の瞬間、目も眩むような強い光りがレイを包んだ。ゆっくりと、目を開けると、そこにはぼんやりと白い天井が映っていた。