12章 Forever and ever -再会-

アンが出て行くと、レイは緊張した面持ちで、ベッドの隅に腰掛けた。本当に、彼が?と未だに信じられない気持ちだった。あんなに会いたいと願っていたのに、今は彼と会う事が怖くてたまらなかった。
クリスティが自殺を図ったあの日が、レイの脳裏をよぎった。もしも彼が、あの時にクリスティに対する『責任』と同じような感情を抱いてここに来るならば、自分は誰かを深く傷つけているのではないかと思った。
こんなつもりじゃなかった、と。
「私は、どうするべきなの?」
レイは、ぽつりと呟いた。膝の上に置いた、自分の手が少し震えているのが分かった。
扉をノックする音が聞こえると、レイはびくりとして扉の方を見た。
「ローラ」
アンが穏やかな微笑みを浮かべながら入って来た。
「ローラ、そんな顔をしないで……、もっとリラックスして」
そう言われてレイは戸惑った。
「……でも、でも私、今更どんな顔をしてあの人と会えばいいの?」
怯えたようにレイが言うと、アンはそっとレイを抱き寄せて
「何も心配する事はないのよ、ローラ。大丈夫よ」と言った。
そして、再び扉が開く音がすると、パトリックがアンを呼ぶ声がした。
「おい、アン……、そろそろ……」
「ええ、今行くわ」
そう答えると、アンは優しい表情で
「ローラ、彼が来たわ」と言うと、部屋を出ようと立ち上がった。
レイは、とっさにアンの腕を取った。
「……お願い。一緒にいて。……私、怖い」
怯えたようにレイが言うと、アンは
「ローラ、何も怖がる事はないわ」と言った。
それでも、怯えた表情でアンを見つめるレイに、仕方のなさそうな顔をすると、扉の方を向き
「パトリック、いいわ。彼に来てもらって」と告げ、レイの手を優しく握った。
やがて、扉の間から、少し不安げな表情のエドが現れた。その場面がレイにはまるでスローモーションのように映った。
「さあ、ローラ」
アンがレイを促すと、レイはゆっくりと立ち上がった。けれど、足元は雲の上にいるように頼りなく、目の前に現れたエドの姿が、夢なのか現実なのか分からなかった。
エドは溢れ出す感情を抑えるように、ゆっくりとレイに近づいた。そして、不安げな表情で自分を見上げるレイに、穏やかに微笑むと、黙って彼女を抱き寄せた。
懐かしい香りがした。
「ああ、やっと君をつかまえた」
エドが、レイを抱きしめる腕に力を込めながら言うと、レイの瞳から涙が溢れ出した。
静かにその様子を見守っていたアンは、安堵の表情を浮かべながら、そっとその場を離れた。
エドの背後で、静かに扉が閉まる音がした。
「レイ、もう君を離さない。二度と、君の傍を離れない」
エドは、そう言いながら腕を緩めると、そっとレイの頬に触れた。
「……エド、どうか私を、……私を許して」
怯えた瞳で彼を見つめながら、レイは声を震わせた。
「レイ、君が謝る事など、何もないんだよ」
エドは優しい声で言うと、ゆっくりと唇を重ねた。
(これは夢の続きなの?)
レイの胸は張り裂けそうなほどの切なさで満たされ、ただ辛く寂しかった日々が、次々と浮かんでは消えて行った。
「レイ、泣かないで。……もう僕はどこへも行かない、そばにいる。だから、泣かないで」
エドは囁く様に言うと、レイを強く抱きしめた。こうしていないと、また彼女が消えてしまうのではないかと不安だった。 レイは、彼の背中に腕を回した。彼が、『責任』を感じてここに来たのだとしても、それで彼を繋ぎ止めておけるならば、それでもいいと思った。例え誰かを傷つけているとしても。だって、私は彼がいなければもう生きていられない、と。誰に責められても、恨まれても、もう二度と離れたくなかった。