11章 ノエル 4 -招かれざる客-

11章 ノエル

chapter11

招待客の殆どがそろった頃、アトリエから店へ降りてきたジェイが
「レイ、エドは?」と聞いた。
「ぎりぎり間に合うって言っていたから、そろそろ来るんじゃないかしら?遅れるなら連絡があるはずだから」
「大丈夫かしら?忙しいんでしょ、仕事」
そう言っていると、少しあわてた様子で、エドがドアを開けて入ってきた。

「すまない、遅れたかな?部屋に戻って着替えてたから……」
「大丈夫。ちょうどみんな揃い始めたところよ」
ジェイが言うと、エドはホッとしたようにしてコートを脱いだ。

「さすが、名門出身だけあるわね。他の連中と違って仮装じゃないわ。なんてたって借り物じゃないものね」

千夏がレイの耳元で、小さな声で呟いた。レイはその言葉に思わずくすりと笑うと、どうして笑っているのか不思議そうな表情をするエドから、コートを受け取った。

アーロンは、招待客が全員揃ったのを確認すると
「さあ、乾杯するよ!みんなグラスを持って!」と皆を促した。

レイはエドにエスコートされ、入り口付近から店の奥のほうへ進むと、シャンパンが注がれたグラスを取った。

さて、乾杯というその時だった。不意に入り口のドアが音を立てて開いた。皆が一斉にドアの方を見ると、そこには、淡いピンク色のコートを着た立川安紗美が立っていた。

千夏は驚いてグラスを置くと、彼女に駆け寄った。

「立川、どうしたの?どうしてここに?」

安紗美は、普通のバーだと思って入った店に、外国映画のように正装した人々が集まっているのに驚き、戸惑ったように言った。

「あの……、嶋田さんが……」
「嶋田さんって……、あなた、嶋田さんを尾けてきたの?」
千夏が呆れたように言うと、安紗美はしどろもどろとしながら
「偶然、話しているのをきいちゃて……、だから、あの……」
千夏はため息をつきながら
「立川、あのね……」と彼女にいいかけると、ジェイがそこに割って入った。
「千夏の会社の人?せっかく来たんだから、楽しんでいってよ。今日はクリスマスパーティーなのよ。さ、コートを脱いで。預かるわ」

安紗美は、ジェイに言われるままコートを脱いだ。白いタートルネックのセーターに、淡いピンクのワンピースを重ね、足元は、リボンのついたベージュのフェイクスウェードのブーツというスタイルだ。街中では『可愛らしい』スタイルもタキシードとイブニングの中では、少し異質な感じがした。

千夏は、彼女を招き入れようとするジェイに驚いて
「ちょっと、ジェイ!」と嫌悪感をあらわにして言った。
「いいじゃない、せっかく来たんだから」
ジェイは千夏の言葉を無視して安紗美を店の中に招き入れた。

「……ったく、どういうつもりなのよ」
千夏はため息まじりにつぶやいた。

安紗美は、ジェイからシャンパングラスを受け取ると、躊躇いながらもレイとエドが立つ、すぐそばへやってきた。
レイが、一瞬の間をおいてから安紗美に向かって微笑むと、安紗美は少し決まりが悪そうに視線を外した。

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