12章 冬の気配3 -ルイーズ・バークスフォード-

12章 冬の気配

chapter12

エドはその日の午後、ロンドンでの最後の仕事を終えると、ジュエリーデザイナーである知人のアトリエへ向かった。彼のデザインしたネックレスはレイのお気に入りで、彼女のためにデザインされたそれは、エドが最初のクリスマスに贈ったものだった。

彼のアトリエで注文していた品を受け取った後、いくつかの店で買い物を済ませてホテルに戻った。荷物を置き、お茶でも飲もうかと再び部屋を出てティールームのあるフロアまで来た時だった。

「エドワード?」

彼を呼び止める声がした。エドが足を止め振り向くと、そこには上品な身なりの老婦人が柔らかな笑顔で立っていた。

「エドワード、お久しぶりね」
「……バークスフォード夫人、お久しぶりです」
驚きを隠せない表情でエドが言った。
「何年ぶりかしらね、あなたに会うのは。ついこの間、アメリカの大学へ行くって飛び出したような気がするわ」
メアリー・バークスフォードは懐かしそうに微笑むと
「もしよろしかったら、お茶をご一緒にいかが?約束がキャンセルになって一人で退屈していたのよ」と言った。

2人はホテルのティールームに入ると、美しい庭の見える窓際の席に案内された。

「ロンドンへはお仕事かしら?」
「ええ」
「そうね。あなたが、ロンドンへ戻るとは思えないものね」
メアリーがそう言うと、エドは苦笑いした。
「……日本に恋人がいるそうね。この間、あなたのお父様が言ってらしたわ」
「父が?」
「ええ、日本にいる恋人と結婚したいからクリスティとは婚約しないと一点張りだって、渋い顔をなさっていたわ」
そう言うと、メアリーは優雅な手つきでティーカップを取った。
「バークスフォード夫人、あなたも私にクリスティと婚約しろとおっしゃるのですか?」
少しうんざりしたようにエドが聞いた。
「まさか!わたくしはそんなことを言うつもりはないわ。むしろ、好きな人がいるのなら、その人とさっさと結婚しておしまいなさいな」

その言葉にエドは驚いた表情をした。メアリーはクスリと笑うと

「家になど縛られる必要などありませんよ。あなたの人生なのだから、思うように生きなさい」と言った。
そして、窓の向こうに広がる、よく手入れされた庭を見つめた。エドは黙って紅茶を飲むと、数日前、何年ぶりかに戻った家で起こった事を思い返した。

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