8章 Patlic -素直になれなくて-

パトリックがホテルの部屋に戻ると、アンがシャワーを浴びて出てきたところだった。パトリックは、はぁ~ とため息をつきながら、ソファにドサリと座り込んだ。
「どうしたの?大きなため息なんかついて。例のダンサーには会えたの?」
バスローブ姿のアンが話しかけた。
「会えたなんてもんじゃないよ。どこかで見た顔だと思っていたら、なんと、ローラの恋人だった男じゃないか。腰が抜けるほどびっくりさ」
「まあ、ローラの……?」
「……ったく。俺にはわからんね。あの2人は」
そう言って立ち上がると、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
「分からないって、何が?」
「あの2人、結局はお互いを必要としていて、愛し合ってるんだよ。彼は、ローラを捜すためにニューヨークまでやってきたってところだな。わざわざ、こっちの会社に転職までしてね。クラスを受けているのだって、おおかた彼女を探すためだろ」
「それで……、ローラの居場所を教えてあげたの?」
「まさか。彼女が教えていない事を俺が勝手に教えるわけにはいかないよ」
「そうかもしれないけど……。お互いに会いたがっているんでしょう?それなら、教えてあげてもよかったんじゃないの?」
「ローラは明日の舞台があるんだ。今夜彼女に動揺されちゃ困るよ。2人を会わせるのは舞台が終って、それからだ」
その言葉にアンは少し呆れたような顔をした。
「……彼は明日、彼女の舞台を観に来るよ。チケットを渡した。あとは、あの2人をどうやって引き合わせるかだ。彼はいいとして、問題はローラだな。素直に彼と会うとは思えない。」
「そうかしらね。ローラは彼を愛しているのよ」
「しかし、何も告げずに去ったのはローラだ。あんなに彼を愛しているくせに、彼に連絡すらしなかった。自分に素直じゃない頑固ものだよ」 パトリックは飲み終わった缶ビールをクシャリと左手でつぶした。