15章 微熱 2 -秘密-

15章 微熱

chapter15

その日の夜、部屋に戻ったレイは、まだ体にだるさが残っているような気がして、ソファで横になっていた。リビングボードに置かれた時計は、午後8時ちょうどを指している。

エドが戻るのは、おそらく11時近くだろう。食欲はないが、なにか少しは食べないと……と思い、ゆっくりと身体を起こした時だった。玄関の鍵が開く音がした。
間もなく、エドが、心配そうな表情でリビングの扉を開けた。

「レイ、大丈夫なのか?ナツから電話があって、君が貧血で倒れたって……」
「ごめんなさい、心配をかけて……。大丈夫よ、疲れているだけだから」
立ち上がろうとするレイを、エドは制止すると、
「食事は?フルーツのサラダとパンを買って来たけど……」と聞いた。
「ありがとう。少し、食べるわ」

エドは買って来たサラダをお皿に移し、パンを切ると、リビングのテーブルに運んだ。そしてサンペレグリノを開け、グラスに注いだ。サラダを取り分け、レイの前に置きながら

「来月、アメリカに出張する事になったんだけど、……1ヶ月と少し長いんだ」と言った。
「……ひと月も?」
レイが表情を曇らせた。

エドはサンペレグリノを飲むと、少し考えた後
「レイ、君の都合のつく期間だけでもアメリカに来ないか?」と聞いた。

レイは、二つ返事で行きたいところだったが、すぐにそう言えなかった。アメリカに行くと言うことは、つまり、レイにとっては一時帰国すると言うことだ。日程をずらして行けば、彼の前でアメリカのパスポートを使わなくても済む。けれど、滞在中に何が起こるかわからないし、身分証明書が必要な事だって無いとはいえない。そんな時、自分が提示するのは日本のパスポートではなく、アメリカか英国のIDだ。

黙ったままでいるレイに、エドが少し遠慮がちに

「無理かな?……無理だったら、いいんだ」と言うと、レイは顔を上げ、彼を見つめた。

話すべき時なのかもしれない、とレイは思った。こんな時にひと月も彼と離れているのは不安でたまらなかった。全て話す必要など無い、自分の国籍はアメリカだと言えばいいだけだ。今まで話すきっかけがなくて話していないことに気付きすらしなかった、と。

「……そうね、休みが取れるかスケジュールを確認してみるわ」 そう答えると、レイは表情を緩めた 。

スポンサーリンク

15章 微熱

Posted by Marisa