7章 Patlic 2 -再会-

2019年11月19日7章 Patlic

chapter7

パトリックは、到着ロビーに着いて千夏の姿を見つけるや否や、千夏を思い切りハグした。

「やあ、久しぶり!何年ぶりだ?踊ってるか?日本はどうだ?」
彼は立て続けに質問を浴びせた。
「さあ、スタジオに案内してくれるんだろ?!踊りを見せてくれよ」
大きなスーツケースとバッグをのせたカートを押して彼が歩き始めた。
「パトリック、とりあえずホテルに荷物を置いてからよ。それに、少し休んでおかないと……」
少し呆れたように千夏が言った。
「大丈夫だ。飛行機の中でしっかり休んできたからね。ずっと座ってたから身体を動かしたいんだよ」

電車で移動する間も、パトリックは話し続けた。千夏を驚かせたのは、つい最近、彼が同じバレエ団で衣裳を担当しているスタッフと結婚したと言う事だった。彼がスケジュールの調整、と言っていたのはそのことだったのだ。

千夏がABTにいた頃は、踊り一筋でゲイじゃないのか?という噂すら流れたくらいだ。

パトリックは驚く千夏に
「おいおい、そんなに驚かなくてもいいだろ。もう俺だっていい年なんだ」と言った。
「驚くわよ!ひどいわね、どうして知らせてくれなかったのよ!?」
「ごめん、それは謝るよ。二人とも忙しいし、さっと身内だけでやろうってことになって……。それに、すぐにこっちに来るから驚かせようと思って」
「十分驚いたわよ!スタジオに戻るまで我慢できないわ。レイにメールする!」
「レイ?レイって?」パトリックが聞いた。
「ああ、ローラの事よ。彼女こっちでは日本名で仕事をしているから」
「へえ。そうなのか。レイ……、ね」

千夏がレイにメールを送信すると、ちょうどレッスンが始まる前のバタバタする時間にも関わらず、すぐに返信が来た。

『うそっ!相手は男?女?』

思わず千夏が吹き出した。笑いをこらえながらパトリックにそれを見せると「おいおい」と少し情けない声を出した。
そして、返信しようとしている千夏から携帯電話を取ると『残念ながら相手は女だ』と打ち送信した。

「……で、ナツ、ローラはどうなんだ?」
「相変わらずよ。本人は不満みたいだけど、相変わらず踊りは優雅で正確」
「そっちじゃなくて……。もう立ち直ってるのかって?」
パトリックが心配そうに訊いた。
「ああ、アレックのこと?それは大丈夫よ。今思いを寄せてる人もいるくらいよ」
「どんな奴なんだ?」
「イギリス人で、ものすごくいい男」
「……いい男、ねぇ。大丈夫なのか?女たらしじゃないのか、そいつは?」
「ジェイによると、クソ真面目らしいから、彼」
「なんだ、ジェイの知り合いなのか?」
「まあね」
「じゃあ大丈夫だな。ジェイの知り合いなら変な奴じゃない」
「パトリック、前から思ってたんだけど、あなたとジェイって似てるわよね。そうやってレイを心配するところが特に」
「彼女の男関係に限ってはね。アレックスの一件を見てるから放っておけないよ」
「それは、私だって同じよ。とにかく心配というか、じれったいのよね」
「じれったい?」
「そう。アプローチすればいいのに“私は無理”って何にもせずにメソメソしてるの」
「おいおい、結局メソメソしてるのか?」
「彼が、他の女の子と噂になった事があってね。それを聞いた日から稽古場にこもりきり」
呆れたように千夏が言う。
「まさか、今もそうなのか?」
心配そうにパトリックが訊いた。
「最近はそうでもないわよ。何かいい事あったんじゃない?本人は何も言わないけど、絶対そうよ」
「ならいいけど……。でも心配だな、俺は。特に相手の男、そいつを見てみたい」
「心配しなくても、すぐ見られるわよ、多分」
そう言って千夏はニヤリと笑った。

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7章 Patlic

Posted by Marisa