7章 Patlic 8 -ジェイの戦略-

7章 Patlic

chapter7

「まったく、どこまで後ろ向きなんだか」
パトリックは、KINGSのカウンター席につくなり、ジェイに言った。

「何のことよ?」
ビールグラスを手にしながらジェイが聞いた。

「ローラ」

「ああ、あの子のこと」
苦笑いしながら、ジェイはグラスにビールを注ぎ、
「今更始まったことじゃないわ」と言いながら、パトリックの前にグラスを置いた。
「彼……、なんて言ったっけ?ローラの……」
「エドね」
「そう、エド。あいつ、ローラのことが好きなんじゃないのか?」
「あら、パトリック、あなたって意外と鋭いのね」
「あんなの、誰の目から見たって、一目瞭然だろ?昨日だって思いっきり俺を牽制してたじゃないか」
ジェイは、思わず笑うと
「気づいてないのは、レイ本人だけだって?」と言った。
「今日、そのことをローラに話したら、思い切り不機嫌になられたよ。ローラは彼の気持ちに全然気づいてないどころか、自分の気持ちすら抑え込んで無かったことにしようとしている。意味がわからんよ」
パトリックはビールをぐいと飲んだ。

「あれじゃ、あいつが気の毒だ」

「まあ、エドもねえ……。積極的なほうじゃないから。見てるこっちはじれったいくらい」
苦笑いしながらジェイが言った。

「何とかしてやれないのかねぇ」
「私だってそう思ってるわよ。でも、エド本人がレイに面と向かってはっきり言わない限りどうしようもないわよ。私たち外野が言っても」
「そりゃそうだけど」
納得しかねるようにパトリックが言った。

「エドはね、あなたをかなり意識していたのよ。初日だったかしら?レイと踊っていたんですって?」
「ああ、こっちに到着した日のこと?」
「エドが言っていたんだけど、ロミオとジュリエットを踊っていたって、本当?」
「そうだけど……。よくわかったな、ロミオとジュリエットだなんて。外からちょっと見えただけだろう?」
感心したようにパトリックが言った。
「彼、結構詳しいみたいよ。バレエに」
「へえ、そりゃ意外だな。男でバレエに詳しいなんて」
パトリックは目を丸くしながら言った。
「で、レイと踊っていたあなたが何者なのかって聞くから、あなたは元同僚だって教えてあげたのよ。でも、面白いからあなたが結婚していることは話さなかったのよね」
そう言って、ジェイはニタリと笑った。

「おいおい、ジェイ!まさか、わざとあいつが俺を意識するように仕向けたのか?」
「あーら、それがいいんじゃない。あのタイプは、少しくらい危機感を持たないとダメよ。彼、クソ真面目な上にびっくりくすくらい奥手なんだから!」

「つまり、尻に火をつけたってわけか?」
半ば呆れ顔でパトリックが言った。

「あなたが、もう少し日本に滞在できれば、協力してもらえるのにねぇ。たった1週間で帰っちゃうなんて残念だわ」
「ジェイ、面白がってる場合じゃないよ。このままじゃ、2人ともどうしようもない。頼むよ、俺はもう泣いているローラは見たくないんだ」
パトリックは、アレックスの一件を思い出すと、眉間にしわを寄せて言った。

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7章 Patlic

Posted by Marisa