7章 Patlic 6 -KINGS-

7章 Patlic

chapter7

3人はカウンターの奥に座っているエドには気づかず、入り口に近いカウンターに3人並んで座った。

「久しぶりね、パトリック。何年ぶりかしら?」
ジェイが懐かしそうに聞いた。
「4年ぶりくらいじゃないか?こっちの仕事は上手くいっているのか?」
「おかげさまでね。で、何を飲む?」
「俺はビールを」
「パトリック、相変わらずビールが好きなのね。太るわよ」
レイが苦笑いしながら言うと
「あーら、私もビールは大好きよ。ジェイ、私もビールね」と千夏が言った。
「じゃ……、私もたまにはビールで」
「オーケイ」
ジェイはカウンターの中でグラスを並べた。

その時、千夏の視界に、奥のカウンター席で本を取り出しページをめくろうとしているエドの姿が入った。千夏は、レイと自分の間に座っているパトリックの前に身を乗り出して言った。
「レイ、嶋田さんがいるわよ」
「えっ?」
「ほら奥のカウンター」
そう言って千夏は視線でエドの方を示した。
「シマダ?」パトリックが尋ねる。
「レイの、想いを寄せてる彼よ。ほら、昨日会ったでしょ?エントランスで」
「ちょ、ちょっと、千夏!違うわよ!」レイが慌てるようにして言う。
パトリックは、そんなレイの声は無視して
「へえぇ~。あの美形が?」と好奇心いっぱいの目をしながら
「ローラ、いつからそんな面食いになったんだ?」と言った。
「ちょっと、止めてよ。そんなじゃないんだから!」
レイが声をひそめながら2人に言った。

「ほら、あんたたち、何をコソコソ話てるの」
ジェイが、顔をつきあわせてヒソヒソ声で話している3人の前に怪訝な顔をしながらグラスを置いた。

「嶋田さん、珍しいわね、金曜の夜にここにいるなんて」
千夏が言った。
「ああ、ちょっとね。こっちに呼ぶ?」
ジェイがそう言うと、レイが反射的に叫んだ。
「いっ、いいわよ!止めて!」

「これがいい証拠。彼女は彼に片思いなの」
千夏がニヤリとしながらパトリックに言った。
「あいかわらず、消極的なんだなローラ。少しは積極的にならないと」
「そうでしょ?ダメなのよこの子は」
ジェイがパトリックの言葉に同調すると、「エド、ちょっといい?」と彼を呼んだ。

不意に呼ばれたエドは、少し驚いたようにしてこちらを見たが、手にしていた本を閉じると、3人のいる方にやってきた。

「エド、パトリックよ。彼女たちの元同僚」
「やあ、パトリックだ。よろしく」
そう言って彼は右手を差し出した。
「はじめまして。エドワードです」
エドは丁寧に言うと彼の右手を取り握手した。
「エド、こっちで話す?グラスを持ってくるわ。」
「あ、いや、いいよ。邪魔をしちゃ悪いし……。それにもう僕はそろそろ帰らないと」
「もう?まだ9時よ」
「明日、早いから。大阪まで出張でね、朝一番の新幹線に乗らなきゃならない」
「まあそうなの。週末なのに大変ね」残念そうにジェイが言った。

そんなやり取りを聞きながら、レイはエドと視線を合わせることも出来ず、決まりが悪そうに、黙ったままでいる。エドは、席に戻って本を取ると、店の出口に向かった。そして、レイのそばを通り過ぎようとした時、一瞬、躊躇したあと彼女に話しかけた。

「じゃあ、ゆっくり楽しんで。またメールします」

エドがそう言うと、レイは予期しなかった彼の言葉に、驚いて彼を見た。彼は穏やかに微笑むと、「お先に」と言って店を出て行った。

彼にしてみれば、パトリックを前にして、精一杯の牽制をしたつもりだった。人前では常に冷静沈着な彼がとった意外な行動に、ジェイは目を丸くした。

エドが店を出ると、千夏とパトリックは
「へ~え、なるほど……。そういう事」と言った。

レイは、少し驚いた表情のまま、グラスを手にすると、ビールを一口飲んだ。どうして彼が自分に声をかけたのか、レイには全くわからなかった。

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7章 Patlic

Posted by Marisa