6章 Edward 7 -ジェイとエド-

6章 Edward

Chapter6

エドは、また小さくため息をつくと、本を閉じた。ロックを一口飲むと、視線だけを動かして店内を見た。いつもより、お客の数は少ないが、知った顔ばかりだ。

「エド、黄昏てる表情も素敵ね」

ジェイが突然声をかけたので、エドはまた驚かされた。
「……で、レイから連絡はあったの?」
「えっ?」
「名刺、渡したでしょ?プライベートのやつ」
「……どうしてそれを?」エドが戸惑ったように言った。
「この間、あの子が来て、あなたから名刺を貰ったって言っていたから」
「いや、それは……」
「あら、別に誤摩化さなくてもいいのよ。あなたが気になっているって言うのはレイの事だったのね」
「……」
エドは少し決まりの悪そうな表情をした。
「ねえ、あなたに限ってこんな事はないと思うけど……」と前置きをしてから、ジェイは
「もし、軽い気持ちだったり、いい加減な気持ちなら、あの子にこれ以上ちょっかいを出さないで欲しいのよ」と真剣な口調で言った。

エドはその言葉に、にわかに表情を変えると
「いい加減な気持ちだなんて……、僕は、本気だよ」少し強い口調で言った。
「わかったわ。ならいいのよ。ごめんなさいね、嫌なことを言って……」
ジェイの言葉に、エドは表情を緩めると一息おいてから
「いや、君は彼女を心配して聞いたのだろうし……」と言いながら、ロックのグラスを手にした。
「それにしてもエド、あなた、一体あの子のどこに惹かれたの?そりゃ、確かに彼女は美人だけど……」
「どこって言われても……」
エドは困ったように言うと、少し考えるようにして言葉を続けた。
「ただ、初めて会ったときに思ったんだ。“やっと彼女を見つけた”って。……不思議だね。初対面で“見つけた”なんて」

ジェイは、ゆっくりと瞬きすると、
「へーえ……、本当にあるのね、そういうのって」と感心したように言った。
「でも、瀧澤さんは……、彼女は僕をどう思っているかは、ね……」
エドはそう言うと、寂しそうに笑った。
「まあねぇ……。あの子、あなたが名刺をくれたのは社交辞令だと思っているし」
「社交辞令……」エドは落胆したように言った。
「それに、あなたが自分に好意を持っているなんて、あの子はこれっぽっちも思っていないわよ」
「……僕としてはかなり好意を示したつもりだったんだけど」
「何言ってるのよ、名刺渡しただけでしょ?それじゃ控えめすぎるわよ」

ジェイがケラケラと笑った。

「違うよ。お昼に誘って、それで名刺を……」
「えっ?そうだったの?お昼に誘われたなんてあの子ひと言も……」
「ちょうど、お昼にエントランスで会って……、思い切って誘ったんだ」
「へえ、そうだったの……」

以前、『どう誘っていいか分からない』と言っていた彼を考えれば、お昼に誘っただけでも上出来だ。しかし、今ひとつ強くアプローチできないエドと、恋愛に関してはとことんネガティブなレイでは、上手くいくものも上手くいきそうにない。

その上、レイは自分自身の出生に縛られて、自分の気持ちすら否定し始めている。どうしたものか……、とジェイは思った。

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6章 Edward

Posted by Marisa