5章 Giselle I

パトリックが着替えを終えてロッカールームから出てくると、スタジオの扉をノックする音が聞こえた。扉を開けて入ってきたのは彼の妻、アンだった。

「やあ、アン」
「もう、レッスンは終わったの?ローラは?」
「ああ ...

5章 Giselle I

レイの話を聞き終わると、パトリックは少し戸惑った表情をしたまま黙り込んだ。何と言葉をかけたらいいのか分からなかった。

レイは、そんなパトリックの表情を見ると、困ったように口の端だけを上げて小さく笑ったあと、視線を自分の足元 ...

5章 Giselle I

レイは、何度もジゼルを踊るなかで、次第に心の奥からこみ上げる切なさを押し殺すことが出来なくなっていた。

その日、1幕のバリエーションを踊っていると、パトリックが途中で音楽を止めた。

「ローラ、どうしてそんなに寂 ...

5章 Giselle I

週末になると、パトリックはレイとのリハーサルのためニューヨークまでやってきた。

スタジオに入るとパトリックはジゼルの音楽を流しながら
「ローラ、君はジゼルをどう踊りたい?」と聞いた。

「……そうね。…… ...

5章 Giselle I

レッスンが終る頃、芸術監督のカーティスが稽古場のドアを開けて入ってきた。彼は稽古場の中にレイの姿を見つけると、笑顔を浮かべながら
「君がローラだね。何度か君の踊りは観た事あるよ。よろしく」と言った。

そして彼は鏡の ...

5章 Giselle I

8月の初旬、レイはジョージ・スター・バレエ団の本拠地があるシカゴへ向かった。

団員たちとの顔合わせのためだったが、レイは少し気が重かった。いきなり、主役を踊ることになった自分を皆がどんな目で見るのだろう?と。かつてABTの ...

4章 Dancer

木曜の午後、パトリックに連れられて行った貸しスタジオは、まだ新しく、とても綺麗で広いスタジオだった。レイが時々借りる古い小さな貸しスタジオとは大違いだ。

「すごくいい床だわ。天井も高くて明るくて……。高いでしょう?」

4章 Dancer

スタジオを出ると、レイは少し曇った空を見上げた。

(……舞台に戻ることができれば、私は彼を思い出さずに生きられるかもしれない。この辛い気持ちから解放されるかもしれない)

ふとそう思った。

けれど、今 ...

4章 Dancer

月曜の午前、レイは久しぶりにSTEP IN のクラスに向かった。それは、ABTにいた頃から時々受けていたクラスで、参加しているメンバーの殆どがプロのダンサーだ。昔の仲間に会うかもしれない、と言うのが嫌で、今まで行くのを躊躇っていたが、 ...

3章 Broadway

12時を少し過ぎた頃、サラはTシャツとスウェットパンツに着替えると、水の入ったペットボトルとバッグを持ってBDSロッカールームを出た。ジャズダンスのクラスを受けるためだ。軽快な音楽に乗って身体を動かすのは、サラにとって最高のストレス発 ...